「パーフェクトワールド」〜 脱獄犯と少年の涙腺崩壊ロードムービー
記念すべき最初の記事は、1番好きな映画で始めようと思います。1番というと決めかねるものですが、僕の中ではとりあえずこの映画がマイベストムービーかと思います。
評価:5.0(人生の1本)
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パーフェクトワールド(原題: A Perfect World)
公開:1993年(アメリカ)
主要キャスト:ケヴィン・コスナー、クリント・イーストウッド
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ケヴィン・コスナー演じる脱獄犯のブッチが、逃走用の車を強奪するために押し入った家の男の子フィリップを人質にとるところから物語が始まります。地獄の逃走劇が始まるかと思いきや、ブッチとフィリップにはある共通点があり、不思議な絆で結ばれた2人のロードムービーが心揺さぶるクライマックスに向けて展開されていきます。シンプルでわかりやすいストーリーですが、何度見ても涙が溢れるクライマックスが用意された感動的な作品です。
監督はクリント・イーストウッド。最近は「アメリカンスナイパー」、「ハドソン川の奇跡」、「15時17分、パリ行き」など、「世界仰天ニュース」のようなノンフィクション映画を撮っていますが、90年代には本作の他にも「ミスティックリバー」「許されざる者」など名作映画を監督しています。本作にも渋いベテラン警官役で出演しています。
ロードムービー、旅路=人生。
このお話はいわゆる「ロードムービー」。旅をする主人公たちに様々な出来事が待ち受けていて、それを追いかけながら物語が進行するタイプの映画です。本作もブッチとフィリップの旅路でいくつかのイベントが待ち受けているのですが、その1つ1つがブッチの人生を象徴する出来事で、全てが映画史に残る感動のクライマックスに繋がっており、シナリオに無駄がありません。この様式美が、涙必至のクライマックスに加えてこの映画のもうひとつの素晴らしさであると言えます。本記事では、ブッチの人生を物語る出来事を振り返りながら、2人の旅路を振り返ってみます。
⑴ テリー殺害
道中最初の出来事。ブッチが脱獄仲間であるテリーを殺害するシーンです。このシーンでブッチは、フィリップをいじめて殺しかねないテリーを殺害し、フィリップを守ります。「ブッチはただの悪人ではない。」と観る人に思わせるシーンであり、ブッチとフィリップの2人っきりの旅路の始まりです。
⑵ フォード強奪
ブッチが逃走用の車を変えるため憧れのフォードを強奪するシーンでは、フィリップがブッチの犯行をお手伝いします。このシーンで、2人はいわゆる共犯者となるわけです。2人の間に、「父親に恵まれなかった」という共通点が見つかるのもこの犯行の直後。少しずつ彼らの絆が深まっていきます。
⑶ 笑顔の店
洋服屋「笑顔の店」でのブッチと警察の緊迫したシーン。ブッチに「乗るのか?」と聞かれたフィリップが自分の意思でブッチの車に駆け込みます。フィリップがブッチのことを信用し、自分の意思でこのロードムービーに参加することを決断したシーンです。
⑷ 「お菓子ちょうだい」
母親がエホバの証人を信仰するせいでハロウィンができなかったフィリップのためにブッチが1日遅れのハロウィンをしてあげるシーン。売春宿で育ったせいで荒れた人生を送ることになったブッチが、家庭環境のせいで自由を制限されているフィリップに同情している様子がよくわかるシーンです。
⑸ 車に乗せてくれた家族
燃料切れでフォードを失ったブッチとフィリップは偶然にも、家族づれと出会い、車に乗せてもらうことになります。車を強奪するのではなく、家族と歌を歌って陽気に振舞っていたブッチ。ですが、コーラをこぼした子ども達に激怒する母親を見た瞬間、顔色が変わります。フィリップも浮かない表情。ブッチは父親に銃を見せ車を奪います。奪った車で、ブッチはフィリップが乗ったことがないというジェットコースターごっこをしてあげてたっぷりと楽しませてあげるのでした。家庭環境に恵まれない2人の心が通じたようなシーンでした。少なくともブッチは、そう感じていたはずです。
⑹ アイリーンの店
これはコミカルなようで2人の旅路を終点へと導く重要な分岐点になりました。飲食店の未亡人とエッチなことをしようとしていたブッチは、その様子をフィリップに見つかってしまい、気まずい様子で店を後にします。フィリップに「なんでキスするの?」と聞かれたブッチは、「お前のママも男の人とするだろ?」と何げなく聞き返しますが、「ママはしない。」とフィリップ。何とも言えない表情をするブッチでした。
売春宿で娼婦の母親と育ったブッチは自分とフィリップの境遇を重ね合わせていましたが、フィリップには彼を愛してくれている母親がいて、帰る場所があるということをひしひしと感じるブッチ。
⑺ 農家での出来事
ブッチの心の闇が露わになるシーンです。脱獄犯でありながら、警察に追い詰められても全編を通して余裕をもって冷静に振舞っていたブッチ。しかし、この農場で息子に手を挙げる父親を見た瞬間。ブッチの目の色が変わります。父親を殴り、銃を向け、家族を縛り、鬼気迫る表情で「息子に愛していると言え!」と、強要するのでした。幼少時代、父親の暴力で人生を台無しにしたブッチの心の傷が露わになった瞬間。そして物語はクライマックスへ。
上に述べたように、道中に様々なイベントを用意しながら、ブッチの人生を丁寧に丁寧に描いてきた上で、物語はクライマックスへ。ロードムービーでは、「旅路」と「人生」が重ね合わせられることがよくあります。本作においても、ブッチとフィリップが辿った旅路から、ブッチの人生そのものを物語っていました。
旅の終わりには必ず「別れ」が待っている
「ブッチ、本当はいい人なんでしょ?」
「いいや、悪い人さ。」
映画史に残る名シーンはみなさん自身でお楽しみください。