シネマライフ・キングダム

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「千と千尋の神隠し」〜一夏の和製アリス。なぜ千尋は現実世界に帰れたのか?あの都市伝説の真相は?

 「未来のミライ」で味わえなかった一夏の冒険を追い求めて「千と千尋の神隠し」を鑑賞しました。この映画は少女の一夏の成長と冒険を描いた物語。2年前の「君の名は。」の快進撃を食らっても揺るがない日本歴代興行収入No.1作品であり、アカデミー賞長編アニメ部門を受賞した日本が誇るアニメ映画です。

 

 

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千と千尋の神隠し

公開:2001年(日本)

監督:宮崎駿

キャスト:柊瑠美入野自由夏木マリ内藤剛志沢口靖子菅原文太、他

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和製「不思議の国のアリス

 このお話は少女が突然不思議な世界に迷い込むお話。その不思議の舞台は銭湯。そこで主人公の千尋は様々な魑魅魍魎たちとコミカルでちょっと恐ろしい体験をしていきます。その様はまさに和製「不思議の国のアリス

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 「腐れ神」や「カオナシ」、「湯婆婆」など、深読みすればするほど何かのメッセージが込められていそうな個性豊かなキャラクターたちを、世界一のアニメ制作スタジオであるスタジオジブリが躍動感に溢れためくるめくアニメ表現で動かすことで、唯一無二の世界が作り出されています。 

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 また、「不思議の国のアリス」のような荒唐無稽な文学作品のことを「ナンセンス」と呼びますが、この映画もナンセンスと同じような文学的魅力を持っていて、観る人ごとにいろいろな解釈ができるのもこの作品の大きな魅力の1つです。

 

油屋=風俗店という都市伝説は本当か?

 作中にいろんな仕掛けや細かなこだわりを盛り込む宮崎駿だからこそ、この作品にも色々な噂や解釈があります。その中でも有名なのが、

油屋は風俗店で、千尋は汚いお客の接待をさせられていた。

というもの。

 これについては、ある意味本当でしょうね。

 宮崎駿自身が「油屋で千尋は湯女として働くことになる」とはっきり言っています。湯女(ゆな)っていうのは、江戸時代のお風呂屋さんでアカスリなんかをしてくれる女性だったのですが、そのうち売春をするようになったという歴史があります。それも、遊郭とは違ってお客を選ばない、現代の風俗店に近い営業スタイルです。なので、乱暴に結びつければ、「千尋は風俗嬢として働かされていたんだ!」ということにできそうです。

 しかし!みなさん!劇中で千尋ちゃんはエッチなサービスしてませんよね?汚いお客さんの体を綺麗にしてあげたり、わがまま言うお客さんに追いかけ回されたりしましたが、性的なサービスはしていません。この作品で、「主人公がいやーな仕事を強いられる」ことは物語の最重要ポイントですが、それが風俗である必要はなく、彼女の仕事については劇中で描かれることが全てです。

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 確かに、湯女には「お客を選ばない売春」のイメージがあり、宮崎駿はそこを上手に利用して、苦労を強いられる千尋を描きました。また、主人公の女の子の成長物語について、接客をするうちにコミュニケーション能力が向上する若い水商売の女の子から油屋という着想を得たそうですが、それはあくまで製作段階でのお話。

 それにしても、「油屋って風俗店を表してるんだって♪」「なるほどー♪」と楽しそうに話している人を見ると「やれやれ。」と思ってしまう今日この頃です。

 

千尋が自分の名前を間違えた2つの理由

 千尋は湯婆婆に名前を書けと言われた時、自分の名前を間違えています。「萩」の「火」が「犬」になっています。これは、わざと間違えたわけではなく、たった10歳の千尋が本当にうっかりと、または覚え間違えていて間違えたものだと思います。この間違いはまだ名前もきちんと書けない少女がこれから試練に巻き込まれていくということを強調すると同時に、実は千尋は湯婆婆と契約していなかったということを表しています。

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 ハクが「本当の名前を教えてしまうと帰れなくなる」と言っていることから、油屋の契約は湯婆婆に名前を教えてしまうことで成立すると思われます。しかし、千尋は本当の名前を書いていないのに油屋で働くことになっていまいました。千尋は本当は働く理由なんてないのに言われるがままに働いていたわけです。これが、最後の豚の中に両親がいないことを見破るシーンに繋がっていきます。

 

油屋とはなんだったのか?

 宮崎駿はインタビューの中で、「油屋は日本そのもの」と語っています。ここからは僕の勝手な解釈ですが、油屋で働く人たちが、誰かの都合で当たり前のように働かされている様子が「日本そのもの」なのではないかと思いました。この物語は言われるがままの千尋が、自分の目で真実を見るようになるまでの成長物語なんです。

 

豚の中に両親がいないことを見抜けた理由

 以上のことを踏まえて、千尋の最後の試練を考えてみたいと思います。彼女はどうしてあの豚の中に両親がいないことを見抜けたのでしょうか?

 それは、千尋が様々な人に出会い、いろいろな体験をしながら精神的に成長し、「本当のもの」を見ることができるようになったからだと思います。

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 働く必要もないのに言われるがままに働いていた千尋が、最後には油屋の洗脳から解き放たれて、真実を見いだすことができたという所に彼女の精神的成長が描かれているのがこの映画です。油屋に迷い込んだ頃の彼女だったら、湯婆婆の言われるがままに、あの豚の中に両親がいると思いこんで当てずっぽうを言っていたかもしれませんね。

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