シネマライフ・キングダム

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「インセプション」〜ダイナミックで豪華絢爛なSF作品。ラストシーンに込められたメッセージとは?

 大好きな映画監督クリストファー・ノーランによる大好きなSF映画、「インセプション」のレビューです。ラストの解釈については持論が展開されていますので、ご注意ください。

 

 

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評価:4.5(面白い映画)

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インセプション

公開:2010年

監督・脚本:クリストファー・ノーラン

キャスト:レオナルド・ディカプリオマリオン・コティヤール渡辺謙、他

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洗練された脚本と映像とキャストに音楽の豪華絢爛なSF映画

 好き嫌いは別として、監督、脚本、役者、音楽ともにビッグネームが名を連ねる豪華絢爛な映画です。まずは、この作品の魅力をどうぞ。

 監督はクリストファー・ノーラン。彼は「メメント」や「インターステラー」、「プレステージ」、「ダンケルク」などに見られるように、映画の中の時間や見せる順番を巧妙に操った緻密な脚本で観る人をあっと言わせる頭脳派な監督です。そして、見たこともないような独特の映像表現で観る人を彼の映画の世界に引き込みます。本作では「夢の中の夢の中の夢」という(映画を見た人にしかわからない表現ですが)、彼にぴったりの題材を手に入れれその魅力を十分に引き出しています。

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 役者陣もとにかく豪華キャスト。レオナルド・ディカプリオマリオン・コティヤール渡辺謙エレン・ペイジトム・ハーディジョゼフ・ゴードン=レヴィットマイケル・ケイン。このお話はチームもので、ディカプリオ率いるチームが大企業の御曹司の夢の中であるミッションを遂行するために大活躍するお話なのですが、この豪華キャストでそんなチームものを演じているので、それだけでも画面が華やかです。

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 音楽を務めるのはハンス・ジマー。「バックドラフト」や「グラディエーター」、「パイレーツオブカリビアン」をはじめ、数々の有名映画の音楽を担当した作曲家ですが、彼の持ち味は重厚でドラマチックな音楽。本作の予告編で流れる「ズーン、ズーン」という音楽はこの作品以降みんながこぞって真似をしたことで有名です。

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※ここからはネタバレです!

 

ハッピーエンドのはずなのに?意味深なラストシーン。

 ノーランの映画といえば、「映画の解釈」があれこれ議論されます。「メメント」や「プレステージ」は誰もが解説したくなるリバースムービーであり、「ダークナイトライジング」や「インターステラー」ではラストシーンの解釈が議論になりました。そして、本作でも、意味深なラストシーンの解釈が議論になっています。

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 それは、ラストシーン、見事作戦に成功し二人の子供を取り戻した後、上の画像のくるくる回っているトークンが、止まるか止まらないか、というところで幕切れとなります。このトークンは劇中で主人公が今いる世界が夢か夢じゃないかを見分けるために使うアイテムです。

こいつ。

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トークンが止まる=主人公がいるのは現実の世界

トークンが止まらない=主人公がいるのは夢の世界

というわけで、それは同時に、

トークンが止まる=主人公のハッピーエンドは現実

トークンが止まらない=主人公のハッピーエンドは幻想

ということになってしまいます。本来なら、このトークンが止まって終わるのが1番すっきりするのですが、止まるかどうかがわからないまま幕切れ。つまり、ハッピーエンドが本当なのかまやかしなのかわからないまま幕切れます。このラストにモヤモヤした人も多いのではないでしょうか?

 

ラストシーンが表すものは?

 あのラストシーンについて、「夢か夢じゃないのか?」という考えに至ってしまうのですが、「夢か現実かわからないという結論に至ってみてはどうでしょうか?ノーランがあえて映さなかったということは、「夢か現実かわからない」というのが結論です。そもそも、トークンが止まったとしても、主人公が見ている夢は「トークンが止まるっていう夢」なのかもしれないじゃないですか。そう考えると、トークンが止まろうが止まらまいが、夢か現実かわからないんです。もしかするとノーランはその矛盾に気づき、あえて最後を描かなかったのかもしれません。ノーランにとってそこは重要じゃなかったんです。

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 では、あのラストシーンでノーランが描いたものとはなんだったのでしょうか?あのラストシーンで、確かだったことは、一度はトークンを回した主人公が、子供達に呼ばれて「トークンを確認しなかった」ということです。それはつまり、主人公は「戦いに勝利し、幸せを勝ち取ったという現実を受け入れた」ということです。それが主人公にとっての現実であり、大切なのはトークンが止まることではなく、主人公が確認しなかったことだったのです。

 

あえて描かなかったのはある演出のため?

 また、あえてトークンの行く末を描かなかったのは、観ている人にある演出を仕掛けたかったからなのかもしれません。

 ラストシーン。トークンが止まらないままタイトルが表示され、幕切れます。

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観ている人は、「ええ!?これで終わり?」とモヤモヤします。エンドクレジット中も、一体どうゆうことなんだろう?と思考を巡らすことでしょう。

 そうしてエンドクレジットを観ていると、最後の最後に「夢から覚める合図の音楽」が流れます。これは劇中で主人公たちが、夢から覚める合図として流した音楽です。これが流れると夢の世界から戻ってこられるわけです。そして、その音楽の直後、もう一度タイトルが。

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実は映画はまだ終わってなかったんです。この最後の音楽で観ている人はやっと映画の世界から目覚めて、現実世界の映画館に帰ってきました。そういえば、この映画の冒頭のシーンは主人公がある人の夢の中である砂浜で目覚める1人称視点のシーンで始まりました。

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ノーランはきっとこの主人公が誰かの夢の世界で目を開くシーンと、映画の中に迷い込んだ観客が映画の世界で目を開くシーンを重ねて描いたのでしょう。

 

観ている人を見事SFの世界に閉じ込めた

ノーランなのでした。