シネマライフ・キングダム

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「ファニーゲームUSA」“映画史上最も不快な作品”のハリウッドリメイク。豪華キャストだが、97年版の方が良かった。

 原典版の「ファニーゲーム」は観たのですが、このハリウッドリメイク版の「ファニーゲームUSA」は初めて鑑賞いたしました。豪華キャストは嬉しかったし、悪趣味な内容についても、まぁ、そういう映画なので批判するつもりはありません。しかし、後述しますが、97年版の方が良かったかな、と言うのが正直な感想です。

 

 

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評価:3.0(微妙な映画)

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ファニーゲームUSA

公開:2008年(アメリカ)

監督:ミヒャエル・ハネケ

キャスト:ナオミ・ワッツティム・ロス、他

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※ 重大なネタバレを含んでいます!

 

97年版のファニーゲームについて

 まず、この映画の原作(?)である「ファニーゲームについて。この映画は1997年オーストリアで公開されたバイオレンススリラー映画です。カンヌ映画祭で上映された際、あまりの不快な内容に会場が騒然とし、賛否両論、有名になりました。監督・脚本を務めたのはのちに「白いリボン」、「愛・アムール」で2年連続カンヌ映画祭パルムドールを受賞した、ミヒャエル・ハケ。(全然作風が違っていて衝撃的です。)

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映画史上最も不快なストーリー

 そして、この作品の「映画史上最も不快」と言われるストーリーについて。別荘でバカンスを楽しむ3人家族のもとに「卵をもらえないか?」と真っ白な服装になぜか手袋をした男2人組が訪ねてきます。

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 最初は好青年だった2人ですが、突如態度が急変。そのあとは、2人組の男が家族をじっくりといたぶる様子を1時間50分間たっぷりと見せられます

 被害者に一切の反撃は許されず、ただいたぶられるだけいたぶられた3人家族は全員死亡。2人組の男はまるで一仕事終えたかのように、次のターゲットの家族に卵を借りにいくシーンで終幕です。

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 残虐な映画は数多くありますが、この映画の中でスプラッター描写があったり、レイプシーンがあったりすることはありません。加害者の二人も淡々犯行を繰り広げていきます。それが返って不気味で、見る人を視覚からではなく、精神的に追い詰めていくような犯行の記録となっています。

 

97年版と同じストーリー、コピーのようなリメイク

 そして、本作はそんな作品のハリウッド版リメイクですが、監督・脚本は97年版と全く同じミヒャエル・ハケ。さらに、映画のストーリーや内容もほぼ97年版と変わりありません。正直言うとどちらを観てもいい感じです。

 違いはというと、キャストが豪華になったくらいでしょうか?ハリウッド版で被害者の夫婦を演じるのは「マルホランド・ドライブ」のナオミ・ワッツと「海の上のピアニスト」のティム・ロス

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 豪華キャストは嬉しいのですが、個人的には知らない俳優さんが演じていた方が現実味があって、暴力の記録映像のように撮影されたこの映画の本質がより味わえる気がします。有名な俳優さんが出ていると「フィクションだよね?」と自分に言い聞かせて安心してしまいますね。あと家に押し入ってくる男もハリウッド版はちょっとイケメンすぎる。

こちらが97年版。

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そしてこっちが本作。

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 それと、97年版のDVDには日本語吹き替えがないですが、本作のDVDには日本語吹き替え音声がついています。

 

 

悪ふざけのようで、実は作り込まれた知的な映画

 被害者家族は助けも呼べないまま、絶体絶命の状態なのですが、それに追い討ちをかけるのが、2人組の犯人がまるで「神」とも言うべき絶対的支配者であるかのような演出が散りばめられていることです。彼らは、画面の向こうの私たちに語りかけてきたり(いわゆる「第4の壁」を破る行為)、

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都合の悪いことがあると、テレビのリモコンで巻き戻したりします。見てない人は意味がわからないかもしれませんが、本当に巻き戻すんです。

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 被害者家族は、彼らが普通の人間だと思っていますが、映画を見ている私たちは、「やばい、こいつらは止められそうにない。」と絶望感を感じるとともに、家族の破滅的な運命を予感しながら映画を見せられることになります。これらは悪ふざけな演出のようですが、実は綿密に作り込まれた演出です。

 例えば、第4の壁を破る演出のために、BGMが排除されています。映画のBGMというのは本来、見ている人には聞こえているが登場人物には聞こえていないものです。しかし本作の劇中に流れる音楽は、CDから流れる音など、登場人物たちも聞いている音楽のみ。また、部屋の隅から犯行を傍観しているような引いたカメラアングルが多用されています。どちらも、見ている人にその場で犯行を見ているような感覚で映画を見せるための演出であると言えます。

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 リモコンでの巻き戻しや、一度家を出て行った犯人が奥さんを縛り上げて帰ってくるシーンなども、一度観客を油断させておいて、また地獄絵図に連れ戻す心理操作が非常に綿密になされていると言えます。

 

 

この残虐な映画に込められたメッセージ

 ミヒャエル・ハケネ監督は、この映画を「ハリウッド製スリラー映画のパロディ」だと言っています。この映画は見ている人の心理をかき乱す映画ではありますが、そこまで凄惨な暴力シーンは含まれていません。脅して服を脱がせたり、ゴルフのアイアンで足を殴ったりする程度。映画の世界では、その辺のハリウッド製アクション映画の主人公の方が、よっぽどひどい暴力行為をしています

 きっと監督は、ありふれた暴力行為を淡々と描き、観客にはまるでその場で見ているかのような感覚を与えることで、「君たちが映画の中で楽しんでいる暴力は、実はこんなにひどいことなんだよ?」と、言っているのかもしれません。

とにかく、暴力を見つめた映画であることは間違いない。