シネマライフ・キングダム

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「スーパー!」〜笑いと暴力で贈る、自分勝手ヒーローの希望に満ちた物語?

 今日は大好きなヒーロー映画を鑑賞しました。ヒーロー映画はヒーロー映画でも、そんじょそこらのスーパーヒーローとは一味違います。ちなみに、監督はのちに「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」というマイナーコミックを世界的に有名な名作ヒーロー映画に仕上げたジェームズ・ガン。そして彼はついに本物のスーパーヒーロー映画、「アベンジャーズ・インフィニティウォー」を監督することになります。

 

 

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評価:4.5(素晴らしい映画)

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スーパー!

公開:2010年(アメリカ)

監督:ジェームズ・ガン

キャスト:レイン・ウィルソンエレン・ペイジケヴィン・ベーコンリヴ・タイラー、他

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※ レビューにネタバレを含みます!

 

豪華キャストによるヒーローコメディ

 この映画を見て、目につくのが豪華キャストです。そして豪華なだけでなく、どれもその役者さんのキャラクターにはまり役で、ナイスキャスティング!

 主演のレイン・ウィルソンこそ、マイナーな俳優さんですが、彼は時々コメディやB級モンスター映画で見る顔で、3枚目の王道を行くような本作の主人公にはまり役です。

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 ヒロインのエレン・ペイジは「ハードキャンディ」や「JUNO」でだいぶ弾けた女の子を演じて高評価を受けた演技派の若手女優。本作でも空気が読めなくてセックス依存症のスーパーヒロイン役を見事な演技力で演じています。危うくて可愛い彼女の魅力が溢れる作品でファン必見。

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 主人公の奥さんを寝とって(?)しまう麻薬の売人はケヴィン・ベーコン。「ミスティックリバー」では正義感溢れる刑事を演じていたはずが、最近ではすっかり汚い悪役がはまり役の渋(しぶ)かっこいいコワモテ俳優になっていますね。

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 そしてその奥さんがリヴ・タイラー。「アルマゲドン」や「ロードオブザリング」が代表作。彼女の父親はエアロスミスのヴォーカル、スティーブンタイラーなの知ってましたか?

 

ヒーローフィルターを排して宗教と暴力を描いた

  世の中のヒーロー映画には「ヒーローフィルター」がかかっています。例えば、キャプテンアメリカが悪役をあのでっかいシールドで殴りつけると、見ている側は気分爽快ですが、悪役が善良な市民に同じような暴力を行うとはらわたが煮えくりかえります。これは、その映画がそのように演出されているから。このヒーローの行いを絶対的に肯定する演出を「ヒーローフィルター」と(私が勝手に)呼びます。

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 しかし、この映画ではそのフィルターがかかっていません。主人公の扮するクリムゾンレッドというヒーローは、確かに街の悪党どもをスパナでボコボコにやっつけて回るのですが、その描写は凄惨そのもの。「それでいいのか?」と観ている側の道徳観を揺さぶられるような演出がなされています。

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 また、主人公がヒーロー活動をすることを思いつくきっかけになったのは、「ホーリーアベンジャー」という、おそらく宗教の勧誘目的で作られたであろう胡散臭く安っぽいテレビドラマでした。主人公がヒーロー活動として行なった数々の行いは、宗教に扇動された人々が行う犯罪行為の風刺のようでもあり、狂気に満ちています。この映画は、生きる望みを失った主人公が、宗教的幻想を見はじめ、凶行に及び、信じた正義を貫く物語。事実、ジェームズ・ガン監督はこの映画について「ウィリアム・ジェームスの『宗教的経験の諸相』という本の映画化と言ってもいい。」と述べています。

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情けないヒーローが到達した、最高のエンディング?

 この物語の主人公は、過去に2度だけ訪れた「人生最高の瞬間」として、「奥さんと結婚した瞬間」と、「ひったくりの逃げた方向を警官に教えた瞬間」のイラストを飾っているような冴えない男です。そして、麻薬の密売人に寝取られた奥さんを寝取られてしまうような念なやつなんです。さらには、彼が本作で実行するヒーロー活動も、前項で述べたとおり、決して褒められたものではない、いわば暴走とも思える行為でした。

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 しかし、この主人公には、幸福感に包まれ、希望に満ちたエンディングが用意されています。しかも、そのエンディングはお姫様を助けたスーパーヒーローの完璧なハッピーエンドとは違う、クリムゾンヒーローという等身大のヒーローにふさわしい幸福を描いたエンディングでした。

 

結局ハッピーエンドなの?

 前項で書いたハッピーエンドは、あくまでも主人公にとってのハッピーエンド。観る人がこのエンディングをどう捉えるかは、観る人次第かなと思います。

 この映画は、観る人が色々考えながら観ないといけないように計算高く作られています。例えば、主人公のヒーロー活動をコミカルに描いていくのかと思いきや、凄惨な暴力シーンを見せたり、悪役であるケヴィン・ベーコンにもちょっと人間味のあるシーンが用意されていたり。ラストシーンでケヴィン・ベーコンは、「俺を殺して世界が変わるのか?」と問いかけ、「試して観ないとわからない。」と主人公は答えます。しかし、結局、「主人公の行いが正しかったのか?」という問いに対する客観的な答えは用意されていません

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 大切なものをたくさん失い、代わりにささやかな幸せを見出した主人公。彼が見つめる壁イラストでいっぱいの壁は、幸福のたくさん詰まった戦いの成果にも見えるし、幻想の幸せで埋め尽くされた空虚な壁にも見えます。ただ、どちらにせよ、一人の男が人生をかけて戦い、彼が守ろうとした女性が幸せに暮らしていることを考えれば、涙を流さずにはいられないエンディングでした

 ラストシーンに映る「コマとコマの間に起こったことなのね」というエレンペイジのセリフが描かれたイラスト。

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主人公が見出した幸せを通して、

私たちは「コマとコマの間」をどう生きればいいのか?

そう考えさせられる。

でも、楽しいコメディ映画です。